目が合うだけで死を招く『邪視』02

>>目が合うだけで死を招く『邪視』01

「どうした!?」
「バケモン!!」
「は?」
「望遠鏡!!裏山!!」

叔父が望遠鏡を覗きこむ。

「~~~~~~ッ」

声にならない唸りを上げ、頭を抱え込む。鼻水を垂らしながら泣いている。

さっきよりは、少し気持ちの落ち着いた俺が聞いた。

「アレ何だよ!!」
「00子~ 00子~」

別れた彼女の名前を叫びながら、泣きじゃくる叔父。

流石にヤバイと思い、生まれて初めて平手で思いっきり、人の顔をはたいた。

体を小刻みに揺らす叔父。10秒、20秒…叔父が俺を見つめてきた。

「邪視」
「じゃし?」
「いいか、俺の部屋の机の引き出しに、サングラスがあるから持ってこい。お前の分も」
「なんで(ry」
「いいから持ってこい!!」

俺は言われるままに、サングラスを叔父に渡した。

震える手で叔父はサングラスをかけ、望遠鏡を覗く。

しばらく、望遠鏡を動かしている。

「ウッ」と呻き、俺に手招きをする。

「グラサンかけて見てみろ」。

恐る恐る、サングラスをかけ、覗き込む。

グラサン越しにぼやけてはいるが、木々の中のソイツと目が合った。

言い様の無い不安がまた襲ってきたが、さっきほどでは無い。

だが心臓の鼓動が異常に早い。

と言うか、さっきの場所では無い…ソイツはふにゃふにゃと奇妙な踊り?をしながら動いている。

目線だけはしっかりこちらに向けたまま…山を降りている!?まさかこっちに来ている…!?

「00、お前しょんべん出るか?」
「は?こんな時に何を…」
「出るなら、食堂に空きのペットボトルあるから、それにしょんべん入れて来い」

そう言うと、叔父は1階に降りていった。

こんな時に出るわけないので、呆然としていたら
数分後、叔父がペットボトルに黄色のしょんべんを入れて戻ってきた。

「したくなったら、これに入れろ」

と言い、叔父がもう1つの空のペットボトルを俺に差し出した。

「いや、だからアイツ何?」
「山の物…山子…分からん。ただ、俺がガキの頃、よく親父と山にキャンプとか行ってたが、あぁ、あそこの裏山じゃないぞ?山は色んな奇妙な事が起こるからな…
夜でも、テントの外で人の話し声がするが、誰もいない。そんな時に、しょんべんとか撒いたら、不思議にピタッと止んだもんさ…」

そう言うと叔父は、もう一度望遠鏡を覗き込んだ。

「グウッ」と苦しそうに呻きながらも、アイツを観察している様子だ。

「アイツな。時速何Kmか知らんが、本当にゆっくりゆっくり移動している。途中で見えなくなったが…間違いなく、このロッジに向かってるんじゃないのか」
「じゃあ、早く車で戻ろうよ」
「多分、無駄だ…アイツの興味を俺たちから逸らさない限りは…多分どこまでも追ってくる。
これは一種の呪いだ。邪悪な視線、と書いて邪視と読むんだが…」
「さっき言ってたヤツか…でも何でそんなに詳しいの?」
「俺が仕事で北欧のある街に一時滞在してた時…イヤ、俺らが助かったら話そう」
「助かったらって…アイツが来るまでここにいるの?」
「いいや、迎え撃つんだよ」

俺は絶対にここに篭っていた方が良いと思ったが、叔父の意見はロッジに来られる前に、どうにかした方が良い、と言う物だった。

あんな恐ろしいヤツの所にいくなら、よっぽど逃げた方がマシだと思ったが、叔父さんは昔からいつだって頼りになる人だった。

俺は叔父を尊敬しているし、従う事に決めた。

それぞれ、グラサン・ペットボトル・軽目の食料が入ったリュック・手持ちの双眼鏡・木製のバット・懐中電灯等を持って、裏山に入っていった。暗くなる前にどうにかしたい、と言う叔父の考えだった。

果たしてアイツの視線に耐えられるのか?

望遠鏡越しではなく、グラサンがあるとはいえ、間近でアイツに耐えられるのか?様々な不安が頭の中を駆け巡った。

裏山と言っても、結構広大だ。双眼鏡を駆使しながら、アイツを探しまわった。

叔父いわく、アイツは俺らを目標に移動しているはずだから、いつか鉢合わせになると言う考えだ。

あまり深入りして日が暮れるのは危険なので、ロッジから500mほど進んだ、やや開けた場所で待ち伏せする事になった。

「興味さえ逸らせば良いんだよ。興味さえ…」
「どうやって?」
「俺の考えでは、まずどうしてもアイツに近づかなければならない。だが直視は絶対にするな。
斜めに見ろ。言ってる事分かるな?目線を外し、視線の外で場所を捉えろ。
そして、溜めたしょんべんをぶっかける。それでもダメなら…
良いか?真面目な話だぞ?俺らのチンコを見せる」
「はぁ?」
「邪視ってのはな、不浄な物を嫌うんだよ。糞尿だったり、性器だったり…
だから、殺せはしないが、それでアイツを逃げされる事が出来たのなら、俺らは助かると思う」
「…それでもダメなら?」
「…逃げるしかない。とっとと車で」

俺と叔父さんは、言い様のない恐怖と不安の中、ジッと岩に座って待っていた。

交代で双眼鏡を見ながら。時刻は4時を回っていた。

「兄ちゃん、起きろ」

俺が10歳の時に事故で亡くなった、1歳下の弟の声が聞こえる。

「兄ちゃん、起きろ。学校遅刻するぞ」

うるさい。あと3分寝かせろ。

「兄ちゃん、起きないと 死  ん  じ  ゃ  う  ぞ  !  !」

ハッ、とした。寝てた??あり得ない、あの恐怖と緊張感の中で。眠らされた??

横の叔父を見る。寝ている。急いで起こす。叔父、飛び起きる。

腕時計を見る、5時半。辺りはほとんど闇になりかけている。冷汗が流れる。

「00、聴こえるか?」
「え?」
「声…歌?」

神経を集中させて耳をすますと、右前方数m?の茂みから、声が聞こえる。

だんだんこっちに近づいて来る。民謡の様な歌い回し、何言ってるかは分からないが不気味で高い声。

恐怖感で頭がどうにかなりそうだった。声を聞いただけで世の中の、何もかもが嫌になってくる。

「いいか!足元だけを照らせ!!」

叔父が叫び、俺はヤツが出てこようとする、茂みの下方を懐中電灯で照らした。

足が見えた。毛一つ無く、異様に白い。体全体をくねらせながら、近づいてくる。

その歌のなんと不気味な事!!一瞬、思考が途切れた。

「あぁぁっ!!」
「ひっ!!」

ヤツが腰を落とし、四つんばいになり、足を照らす懐中電灯の明かりの位置に、顔を持ってきた。直視してしまった。

昼間と同じ感情が襲ってきた。死にたい死にたい死にたい!こんな顔を見るくらいなら、死んだ方がマシ!!

叔父もペットボトルをひっくり返し、号泣している。落ちたライトがヤツの体を照らす。

意味の分からないおぞましい歌を歌いながら、四つんばいで、生まれたての子馬の様な動きで近づいてくる。右手には錆びた鎌。

よっぽど舌でも噛んで死のうか、と思ったその時、

「プルルルルッ」

叔父の携帯が鳴った。号泣していた叔父は、何故か放心状態の様になり、ダウンのポケットから携帯を取り出し、見る。

こんな時に何してんだ…もうすぐ死ぬのに…と思い、薄闇の中、呆然と叔父を見つめていた。

まだ携帯は鳴っている。プルルッ。叔父は携帯を見つめたまま。ヤツが俺の方に来た。恐怖で失禁していた。死ぬ。

その時、叔父が凄まじい咆哮をあげて、地面に落ちた懐中電灯を取り上げ、素早く俺の元にかけより、俺のペットボトルを手に取った。

「こっちを見るなよ!!ヤツの顔を照らすから目を瞑れ!!」

俺は夢中で地面を転がり、グラサンもずり落ち、頭をかかえて目をつぶった。

ここからは後で叔父に聞いた話。まずヤツの顔を照らし、視線の外で位置を見る。

少々汚い話だが、俺のペットボトルに口をつけ、しょんべんを口に含み、ライトでヤツの顔を照らしたまま、しゃがんでヤツの顔にしょんべんを吹きかける瞬間、目を瞑る。霧の様に吹く。

ヤツの馬の嘶きの様な悲鳴が聞こえた。さらに口に含み、吹く。吹く。ヤツの目に。目に。

さっきのとはまた一段と高い、ヤツの悲鳴が聞こえる。だが、まだそこにいる!!

焦った叔父は、ズボンも下着も脱ぎ、自分の股間をライトで照らしたらしい。

恐らく、ヤツはそれを見たのだろう。言葉は分からないが、凄まじい呪詛の様な恨みの言葉を吐き、くるっと背中を向けたのだ。

俺は、そこから顔を上げていた。叔父のライトがヤツの背中を照らす。

何が恐ろしかったかと言うと、ヤツは退散する時までも、不気味な歌を歌い、体をくねらせ、ゆっくりゆっくりと移動していた!!

それこそ杖をついた、高齢の老人の歩行速度の如く!!

俺たちは、ヤツが見えなくなるまでじっとライトで背中を照らし、見つめていた。いつ振り返るか分からない恐怖に耐えながら…

永遠とも思える苦痛と恐怖の時間が過ぎ、やがてヤツの姿は闇に消えた。

俺たちはロッジに戻るまで何も会話を交わさず、黙々と歩いた。

中に入ると、叔父は全てのドアの戸締りを確認し、コーヒーを入れた。飲みながら、やっと口を開く。

「あれで叔父さんの言う、興味はそれた、って事?」
「うぅん…恐らくな。さすがに、チンコは惨めなほど縮み上がってたけどな」

苦笑する叔父。やがて、ぽつりぽつりと、邪視の事について語り始めてくれた…

>>続く

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。